脱「無縁社会」へ商店主の取組:第5話『和歌山市の森下幸生さん』

 脱「無縁社会」へ商店主の取組 第5話は
和歌山県和歌山市でビジネスホテル「ビジネスイン南海」を営む森下幸生さんです。

 森下幸生さんは、和歌山市駅地区 商店街連盟会長の要職にありますが、約10年前
商店街組織と商店街活性化活動に、疑問と限界を痛感します。

「商店だけの組織が、商店街だけの活性化を目論む閉鎖的な活動への疑問と限界」は
もはや全国で見られる現象
ですが、その対策は殆どの商店街で手つかずのままです。

 この弊害の打開策として、拙著『日本版スローシティ』188頁~「閉鎖型コミュニティ」ではない
「開放型コミュニティ」を創ることを提唱
、森下さんの取組はその好例です。

 森下さんは、商店街だけの閉鎖的な組織、閉鎖的な商店街活性化活動を、
商店街と市民が共存・協働する開放的なまちづくり団体「孫市の会」に発展移行させて、
「孫市の会」会長に就任します。

 孫市は、司馬遼太郎さんの著名小説『尻啖え孫市』の主役「雑賀孫市」のことで、今でこそ
孫市は「和歌山市民が共有して誇りに思える歴史的な地域資源」と位置づけられる。しかし、
地域全体で共有すべき資源を10年前、商店街は商店街活性化の為に
(「商店街競争力強化事業」という補助金をもらって)独占して使用し始めた。
 
 このような商店街など一部利害関係者だけが豊かになる為の地域資源独占は
他地域の商店街や「飲食店だけが儲けるB級グルメ」の取組に多く見られる
。 
これが森下さんの感じる「商店街組織と商店街活性化活動の疑問と限界」の一例であり、
商店街と市民で地域資源を共有して地域全体の活性化を目指す組織「孫市の会」へ移行する。

”商店街と市民で地域資源を共有して地域全体を活性化したい”森下さんの熱意は
私の地域再生理念と相通じているので、私には理解も共感も容易い。しかし、この崇高な理念を
商店街のオヤジ一人が、市民と地域に伝えること、協働関係を築くことは非常に難しいと思う。
 更に、10年前「雑賀孫市」を知る市民は少なく、孫市の魅力を伝えることも容易ではない。

 そこで森下さんは、ご自身が「雑賀孫市」になりきって、動く広告塔になる取組を始める。
どこへ行くにも甲冑姿の森下さんは、今でこそ和歌山市民の人気者だ(写真1~4)。
しかし、当初は相当「変わり者を見るような視線が注がれていた」と思う。

 次に「孫市の会」が毎年の2回の祭りを主催し、役者として出演する取組を始める。
春の「孫市まつり」、夏の「孫市の街!市駅夏まつり」の目的は、街への集客よりも
”孫市が和歌山市の地域資源であり、これを誇りに地域全体を活性化しよう”という理念を
市民に伝えて共感してもらうことにある。
 孫市まつりへの共感は近隣都市に伝わり、他都市の祭りに招待されることもある(写真1)。

「孫市の会」には4月現在、123名の個人会員、11の団体会員が参加している。
個人会員の内訳は、商店主26名、一般市民97名。 商店主以外が多い会員構成は、森下さんの
”市民で地域資源を共有して地域全体を活性化したい”熱意が、市民に広く伝わった事を示す。

 本年3月27日(日)、孫市の会は第7回の「孫市まつり」を開催した。
東日本大震災後、自粛の嵐が吹き荒れる中、東北への想いを秘めて「孫市まつり」を敢行して
収益は義援金として東北へ送る判断には、強く共感する(写真2、3)。

 本年1月、森下さんが経営する「ビジネスイン南海」1階に、孫市の魅力を伝える
アンテナショップ「孫市城」がオープンした。
 50㎡の店舗が生む売上金は全て「孫市の会」の活動資金に充てるので、店員を雇う
余裕など無い。ホテル社長の森下さんや「孫市の会」会員が甲冑姿で店員になる(写真4)。

 経営者であれば、ホテル1階の50㎡は、利益が出る店に貸して、楽して利益を得たいだろう。
しかし、森下さんは孫市の取組を始めて10年経過した今も「私益より公益を優先」して
自らが地域再生に奔走し、私益の出ない戦略的赤字施設を開設して店員をかってでる。

 私益より公益を優先する人が、報われる社会(地域)を創りたい。
これは私の地域再生ビジョンであり使命でもある。
 私は、森下さんと「孫市の会」の取組を応援しています。


関連記事  交流と賑わいを育む”戦略的赤字施設”鹿児島市「マルヤガーデンズ」

「私益より公益を優先する人が、報われる社会(地域)を創る」 ~テンプレートとベストプラクティスを猿真似する会社(地域)は衰退する


写真1 堺まつりに招待されて「孫市」を演じる森下さん(写真中央)
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写真2 「孫市まつり」で”がんばれ東北”を訴える森下さん
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写真3 和歌山市長へ「東北への義援金(孫市まつりの収益金・募金)」を手渡す森下さん
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写真4 ホテル1階の孫市城で御客様の御要望にポーズをとる「ホテル社長」の森下さん
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ご回答いただけると嬉しいです。

「地域再生の罠」拝見させていただきました。将来、県庁職員を目指しており大変勉強になりました。
私の故郷である秋田県の秋田駅前の、「西武」が撤退し、代わりにそこに「LOFT」がオープンしたのですが、そのことがまさに「地域再生の罠」にあった、提供者目線の行動(知識の無い学生の勝手な考えですが)なのではないのか?また撤退するのではないのか?と思いました。また、駅周辺の店で売っている若者向けの衣服の値段も高額になってきていると感じます。それには駅からバスで約20分の距離にある大型商業施設の存在が関係していると思います。そこに行けば、衣服、飲食、映画、ボーリング、ゲームセンターなど若者が好むものが揃います。しかし、それでは地域全体の経済は豊かになりません。かといって、その大型商業施設が無ければ生活が不便なことも間違いありません。このような場合、大型商業施設の付近に個人経営の店をいくつも建てると、地域全体の経済の潤いにつながりますか?もしお時間があればご回答していただけると幸いです。拙い文章で申し訳ありません。よろしくお願い致します。
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