「名ばかり百貨店と女性フィットネスクラブ」で商店街活性化~伊万里市を例に

 1月25日(火)に佐賀県伊万里市で開催した「伊万里まちづくりオープンセミナー」の報告です。

 参加者は地元の方を中心に、佐賀県唐津市、熊本県熊本市、長崎県諫早市など
かなり遠方から来てくれた方々もいました。
 遠方からの参加者(よそ者)が第二部の意見交換で、地元での取組の本音や苦労話を
紹介するなど活躍してくれて、地元の方々と私は非常に良い刺激を受けました。

 特に、西唐津商店街理事長の喜多島さんは、拙著『地域再生の罠』で主張する
「商店街は市民の出会い・交流の場」の共感者かつ実践者です。 
 喜多島さんは昨年、経営する化粧品店内に交流の場としてカウンター・バーを
DIY(Do It Yourself=日曜大工)で創りあげました。お客様に自家製のコーヒー等を
ふるまい交流することで、来客は増えるし、御客様のニーズを知ることもできるわけです。
 
 そんな喜多島さんから頂いた次の御指摘には、本当に共鳴します。
「商店街・商店主の殆どが、行政など他者に依存しすぎで、努力も全く足りない」
「化粧品店は、物(化粧品)を売るのではなく、顧客に美しさを売る」


注)喜多島さんの詳しい御話は以下記事で詳解します。
 脱「無縁社会」へ商店主の取組:第1話『佐賀県唐津市の喜多島さん』


 さて、伊万里市4商店街は約3分の1がシャッターを閉めています(写真1,2)。
地方都市にありがちなシャッター商店街ですが、
いすい通り(4商店街の一つで、伊万里駅から最も遠い)を楽しそうに歩く中高年女性達が
多いことに私は注目しました。シャッター商店街の一角だけど、活気と賑わいがあるのです。

 しばし観察していると、女性専用フィットネスクラブを利用し終わった女性達が連れだって、
至近にある地場百貨店の玉屋へ行く姿を見かけました。
 私は“女性達の行動と、2つの施設の関係”に活気の理由があると仮説をたて、
2つの施設を視察・調査しました(写真3)。
(女性専用フィットネスクラブの飛び込み視察は、勇気いるんですよ。詳細は後ほど!)

 視察結果、2つの施設では、それぞれ素晴らしい次の取組が昨年後半に実践されて、
わずか数カ月という短期間に活気を創出したことが解ります。

① 地場百貨店の玉屋が経営難でも撤退せず「名ばかり百貨店」として再生・存続。
② 玉屋に近い化粧品店主(33歳の若者)が「市民の公益、交流」の創出を目的に
 「女性専用フィットネスクラブ」へ転業。


 いすい通りから「百貨店」の玉屋に入ると、いきなり「生活用品コーナー」という幟があって
洗剤などを売っています。生活用品コーナーの先は「食品コーナー」で、スーパーで見るのと同じ
並列レジに会計を待つ顧客が並んでいます。

 百貨店とは名ばかりで、まるでスーパーの光景を見ているような錯覚に陥りますが、
レジの先には百貨店1階の定番「ブランド化粧品店」が見えます。

 2階は主に婦人服売り場ですが、やはり百貨店とは言い難い店舗・商品が並ぶ。
3階へ上がろうとしたら、エスカレターが閉鎖されています。
そう、5階建てのビルは2階までしか使われていないのです。

 以上のように玉屋は、百貨店というには業態的にも売場面積的にも中途半端で、
百貨店とは名ばかりで、中身はGMS・スーパーに限りなく近い。
 玉屋の現在売上は全盛時の3分の1、他の地場百貨店なら、とっくに撤退しているはず。

 地場百貨店の玉屋は、なぜ撤退せずに「名ばかり百貨店」として変身したのだろうか?

 市民と地域が存続を強く望んだから。玉屋は
「名ばかり百貨店」であれば、市民と地域のニーズに応えることができて、
売上は少なくても、利益を出せる
と判断したようです。

 市民、特に中高年女性は具体的には、次のようなニーズをもっている。
”中途半端でも良いから、GMSという利便性と、百貨店という華の双方が必要。”

 事実、地方都市の中高年女性から次のような話をよく聞く。
「普段は日用品が揃えば十分。しかし中元・歳暮など贈り物と、化粧品・衣服の一部は、
百貨店の包装紙とブランドに包まれたものが良い」と。

 
 地方都市で「百貨店の撤退」に悩む関係者の皆さん、伊万里市玉屋のように
「名ばかり百貨店」として再生・存続する途を是非、検討してみてください。

 「名ばかり百貨店」は、提供者目線から見ると
「非常に中途半端な冴えない施設」に見えてしまうでしょう。しかし、
地方中小都市の市民目線で見ると「絶対に必要=需要の高い施設」です。つまり、
「名ばかり百貨店」は、市民と地域から感謝されて、
百貨店の企業評価を高めることができて、利益も持続的に出せるのです。


 「名ばかり百貨店」として再生した伊万里玉屋の詳細は以下をご覧ください。
 http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.1677754.article.html


 さて、拙著『地域再生の罠』の刊行時期は、玉屋が
「名ばかり百貨店」として再生した時期と同じ2010年7月上旬です。
 
 玉屋近くで化粧品店を経営する33歳の若者(以下、Aさんと言う)は、
再生した玉屋の賑わいと、『地域再生の罠』の提言2
”女性専用フィットネスクラブなど「交流を促すスポーツクラブを街中に創る」”に注目した。

 Aさんは早速、『地域再生の罠』110頁記載の「カーブス」について他都市視察など調査を行い、
女性専用フィットネスクラブは衰退した地方都市の再生に有効だと確信する。
Aさんはカーブス本部に出向いて出店契約を結び、12月に開店にこぎつけた。

 Aさんの行動力は賞賛に値する。カーブスの存在・価値を知ってから開店まで
僅か4ヶ月強という迅速さ、開業1ケ月で150人の会員を集めている。

 私は講演前、カーブス伊万里店に飛び込みで見学・取材を申し込んだ。
私が扉を開き入室すると、トレーニングしていた女性達の体がピタッと止まり、
”あらっ男が入ってきたわ”という視線を一身に浴びました(汗)。

 インストラクターの話では「会員さんの多くは玉屋さんへ行く、ついでに利用できる
便利さから入会して、同士と楽しく運動と交流できると言ってくれています」と言う。


 私は講演で以上の話を紹介し、「玉屋再生とカーブス開業という2つの取組により、
市民の街中への集客・滞留時間は向上した。他の商店主さんも若いAさんに続き、
市民の交流を創出する取組をしよう。特に、シャッター商店には
飲食店や若者店を誘致して”とにかく貸して公益に使い”ましょう」と提案しました。

 玉屋とAさんの取組背景には、伊万里駅前にあったダイエーが2002年に撤退して、実に
8年以上も廃墟ビルとして放置される問題があります。

 ダイエー撤退から8年以上経過した昨年10月、関係者は
ようやく大型施設誘致を断念して、土地の分割処分を決めて建物解体に着手した。
ただし、土地半分は未だ売却予定はない。 詳細は以下を御覧ください。
 http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.1747516.article.html

 伊万里市がダイエー撤退後の廃墟ビルを8年以上も放置したのと同じ問題を
衰退し続ける地方都市の殆どが抱えています。つまり、地方都市が衰退する本質には
百貨店など大型商業施設への依存と、大型店撤退対応の拙さ・遅さがあります。
 

 具体的には先ず、撤退した大型店と同じような大型店の誘致ばかり考えることが問題。
同業店が撤退する市場(地域)に、ライバル店が出店する可能性は限りなくゼロに近い
「現実」を、まちづくり関係者・専門家の殆どが、未だに解っていない。

 彼らは更に、実現困難な大型店誘致や大規模開発に固執し何年も時間をかけすぎて、
廃墟ビル放置が長期化する「リスクと弊害」も、未だに解っていない。

 この地方都市における「現実」および「リスクと弊害」を
拙著『地域再生の罠』で解き明かしたのですが、一体いつになったら、
まちづくり関係者・専門家は、この「現実」に気がつくのだろうか?
 地方都市から大型商業施設が撤退を加速し始めてから、もう10年は過ぎた「現実」を。

 撤退した施設が「シャッター百貨店、廃墟ビル」として、もう何年も放置されたままの
地方都市がどんどん増えているのに彼らが、この「リスクと弊害」に気がつく日は来るのだろうか?


 私の提言、例えば「交流を促すスローフード飲食店やスポーツ施設を創る」は
まちづくり関係者・専門家の目線だと「効果は小さい」のかもしれない。しかし、
重要な論点は、地方都市が衰退し続けている「現実、リスクと弊害」に配慮した
実現性と持続性であり、その結果「市民が豊かになる」ことにある。

 こういう観点から、市民ニーズを重視した「名ばかり百貨店」として再生した玉屋と、
Aさんの「迅速かつ公益を重視する行動力」は、地方都市再生に有益な示唆を与えてくれる。


写真1 伊万里市駅通り商店街
伊万里駅通り

写真2 伊万里市仲町観音通り 
伊万里なかまち

写真3 伊万里市いすい通りのカーブスと、玉屋(つきあたりの5階建てビル)
伊万里カーブス


     若者バカ者まちづくりネットワーク 主宰  地域再生プランナー 久繁哲之介

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『地域再生の罠』ちくま新書
『日本版スローシティ』学陽書房
『コミュニティが顧客を連れてくる~愛される店・地域のつくり方』
『商店街再生の罠』ちくま新書

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